映画「ウルトラミラクルラブストーリー」

「ジャーマン+雨」で衝撃を受け、新作を心待ちにしていた横浜聡子監督の「ウルトラミラクルラブストーリー」。

監督と主演の松山ケンイチの故郷でもある青森でのオールロケ、全編津軽弁の、ヘンテコ農業青年の究極の片思いファンタジーとの宣伝文句から、いったいぜんたい??の期待半分、不安半分。

でもあの「ジャーマン+雨」を作った監督なら!との思いで鑑賞に臨みましたが、いやいや、やられました!やはり天才です、横浜監督。そして松山ケンイチ。

松山ケンイチは、ドラマでちょこっとと、「人のセックスを笑うな」くらいしか観たことがなく、今までそんなに意識している俳優さんではなかったのですが、今回はもう、すごいの一言です。

青森で、死んだ祖父が吹き込んだカセットテープを指南に日々野菜を作っている陽人は、トラックで野菜を売り歩き、立ち寄る先の幼稚園で、東京から来た新任の幼稚園教諭、町子と出会う。
過去に恋人が交通事故で死に、またその事故当時彼が浮気相手の女と一緒だったという事実から立ち直れない(というか彼が自分をどう思っていたのかという呪縛から解けない)町子。
一方、脳の回路が他人と違い、常に頭の中をヘリコプターが飛んでいる音がするという(作中詳しい説明はないが、織田信長と同じ脳と言っていたのでADHD)陽人。
強引でしつこく落ち着きのない陽人に、町子はしばらく本気で腹を立てている。
そんな折、ひょんなことから農薬を大量に浴びてしまった陽人は、なぜかその後、不思議と頭の中の音が消え、静かで落ち着いた自分を手に入れる。
その状態で、いろいろなことを語り合うことができるようになった二人。
町子は、「こっちの陽人さんの方がいい」と言う。
農薬の効き目が切れてしまい、町子に嫌われることを恐れる陽人は、何度も何度も自ら農薬を浴び、静かで町子に気に入られる自分で居ようとする。
そして、徐々に体が耐えきれなくなり・・・

この歳になり最近思うこと、それは恋愛とは奇跡だということです。

映画の中で、陽人が、片想いや両想いという言葉を何度も使い、町子は「両想い両想いってバカみたい。子供じゃないんだから」というような事を言います。

最近、巷には婚活だのが溢れていますね。
結婚相手に求める条件、自分の希望に合わせてくれる相手、安定した生活。

相手に求めるのは、自分が持っていないから。

人を想うという事、恋焦がれる苦しさ、好きな人に想われたいという切ない願い、それこそが、人間に与えられた奇跡の感情ではないのかと思うのです。
片想いも両想いも奇跡です。

「そのままの陽人さんでいい」、と言う町子。
そのままの自分でも町子に受け入れられると知ったときの陽人の喜び。
あの瞬間、あの両想いを知った瞬間の陽人の喜びを、わたしたちは人生で何度体験できるでしょうか。できたらそれは、本当に奇跡の瞬間なのです。

最後、脳みそが熊に食べられてしまう時、脳の回路なんて糞くらえ、あなたはあなたでしかないんだよ、の力強いメッセージを感じました。

何かを感じる時、それは自分の中に新しい種を蒔いたり、種だったものが花を咲かせたりしますね。
人の作るものにはいつも感動させられ勇気づけられます。

「ウルトラミラクルラブストーリー」 2009/日本
監督・脚本 横浜聡子
出演     松山ケンイチ 麻生久美子 他
配給     リトル・モア