映画「once ダブリンの街角で」

「サンダンス映画祭、観客賞受賞。全米で、わずか2館の公開から、口コミで140館に拡大。」
こういう宣伝文句ちょくちょくあるよなぁーと、興味本位で手に取ったDVDでしたが、見終わった今も余韻から抜けられません。

舞台はアイルランド。
ストリートミュージシャンの男は、街角で毎日歌う。
夜にだけオリジナルで心の叫びを歌うが、聞く者はいない。

そんなある日、チェコからの移民の少女が彼の歌に立ち止まる。
他愛もない会話をかわし、そこから、お茶を飲んだり、掃除機を直してもらったり(男は掃除機直し屋)、些細な交流を重ねてゆく。
過去の失恋を引きずる男と、若くして生んだ子供と母親と三人で暮らす少女、二人をつなぐのは歌。
男は、ピアノが好きな少女に手伝ってもらい、デモテープを作成する。
それを手にロンドンへゆく為に。

とにかく歌がいい。
ミュージカルとも違い、挿入歌を俳優たちが歌っているような、歌詞がセリフ(気持ち)にもなっているような、染み入るメロディと共に心に深く響きます。

そして、男女の微妙な心の揺れ動き、少女の素直な人間性、男のちょっとダメなところ、すべてがとてもリアルに丁寧に描かれています。

私たちは、ともすれば、確かなものを求めてしまいます。
確かなもの、というのは、完璧なものという意味ではなく、自分が安心するための名札のようなものという意味です。

男女であれば、
つきあうのかつきあわないのか。
結婚する気はあるのかないのか、など。

この映画は、そうではないその行間にあるものこその豊かさを思い出させてくれます。

街角のたった一つの些細な出会い。
一瞬の交差が永遠になる時。
「ふたりをつなぐ、愛より強いメロディ」

「once ダブリンの街角で」 2006/アイルランド
監督 ジョン・カーニー
出演 グレン・ハンサード 、 マルケタ・イルグロヴァ 他
配給 ショウゲート